豚肉と里芋の早角煮

江上種英さん(江上料理学院主幹。昭和60経)

TARO(里芋)
 里芋は田いも(みずいも)を改良したものと推定されているが、みずいもの日本への伝来は、稲作以前からと言われるほど古い。最古の文献では、万葉集で「宇毛」の名前で詠まれている。
 昔から里芋は、親芋、子芋と増え続けるので、子孫繁栄の縁起物てしても親しまれていた。冬の訪れを感じる頃、里芋をこっくりと煮ふくめて味わえば、素朴な中にも力強い自然の恵みを感じることができる。
 さて、先日、機会があって陶芸家の百田 輝(あきら)さんの窯を訪ねることがあった。見よう見まねで、手びねりに挑戦し形を作ってゆく。「歪みがあたたかさになる」という百田さんの言葉に励まされて、器と酒器と箸置に挑戦した。横で準備されていた鴨鍋の仕度を手伝う事もなく、一心不乱に作り上げてしまった。陶芸はけっこう体力を使う。その夜の酒が美味しかったことは言うまでもない。
 数ヶ月後、自分の「作品」が届けられた。あちらこちらに歪みはあるが、それなりにいとおしい。見るからに洗練されていない器になにを盛ろうかと考えていた時、飴いろの里芋の煮物が思い浮かんだ。盛ってみると、我ながらぴったりである。里芋は品種改良の難しい品種で、古代の味をそのまま受け継ぐと聞く。長い夜、遠く万葉集の時代に思いを馳せながら自作の酒器で一献。いかがだろうか。
HOW TO COOKING
豚肉と里芋の早角煮
1.里芋は皮をむき塩水で茹で、ぬめりを取る。
2.豚ばら肉は角切り、生姜は薄切りにする。
3.フライパンを熱して2を焼き余分な脂肪を落として、生姜を取り除き別皿にとる。
4.鍋に3の豚肉を入れ、水、酒、砂糖、醤油を加えて蓋をして弱火で煮る。
5.20分位煮たところで里芋を入れ、弱火で煮て肉と里芋がやわらかくなったら味を調える。煮崩れないようにかき混ぜながら、煮汁がなくなるまで煮つめる。
6.仕上げに柚子の皮をふる。