タコのリゾット

江上種英さん(江上料理学院主幹。昭和60経)

OCTOPUS(蛸)
 ポルトガルのナザレは、伝統的な独特の服装(男はチェックのシャツとフィッシャーマンズセーター、黒い帽子・既婚の女性は7枚重ねのスカート)で知られる町だ。白く長く続くビーチのはずれには、巨大な崖がそびえ立ち、展望台となっている。ビーチ側のプライア地区から崖上のシティオ地区へ、ケーブルカーで上ってみよう。街を望む展望台の脇には小さな礼拝堂がある。これが聖母マリアの奇跡が起こったといわれるメモリアル礼拝堂で、いつも多くの人たちでにぎわっている。
言い伝えによると、1182年の霧のかかった朝、城主ドン・ファス・ロビーニョが鹿狩りをしていた。シティオ岬の端で急に獲物が姿を消し、気がつくと馬の前足部分の下には、ぱっくりと空がひろがっていた。そのとき、聖母マリアが突然現れ、馬は奇跡的に後戻りした。彼はその御加護に感謝して礼拝堂をたてたという。礼拝堂の中にはマリア像、小さな窓からは、絶壁のはるか下にナザレの町がひろがる。
夜風が涼しくなったら、プライアのシーフードレストランをそぞろ歩いてみよう。バカンス客でにぎわっているが、港町の風情があちこちに残り、気取らぬ町並みからは、笑い声が響いてくる。ふらりと入った店には、広場に面したテラスがあり、魚介類が並んでいる。干しダラのコロッケ、イワシの塩焼きなどもおいしい。特にタコのリゾットはゴロゴロと新鮮な切り身が入り、濃厚なスープとからまって絶品。すっきりとした白のワインによく合う。潮騒の中にアマリア・ロドリゲスの歌がきこえたような気がした。
リスボンに戻り街を歩いていると、明るい色調で素朴なお皿が、ウインドウの中に輝いていた。ポルトガル唯一の高級磁器メーカー、ヴィスタ・アレグレ。青い海を思わせる地にはおいしそうな貝が描かれている。早速店に飛び込み価格を聞いてみると、一式揃っていないからセールだという。心の中でほくそえんで、厳重に包装してもらった。
東京で梱包から出てきた皿は、思いのほか大きかった。日本人なら取り分けて使っても十分良さそうだ。早速タコのリゾットをつくり、オリーブを散らしてみた。現地で食べた荒削りの味ではなかったが、上品に炊き上がった一品は、遠い海の記憶を思い出させた。

HOW TO COOKING
タコのリゾット
1.タコを洗い、赤ワインを入れた水で煮て、適度な大きさに切る。
2.茹で汁はとっておく。
3.タマネギ、ニンニクはみじん切りにしてオリーブオイルで妙める。
4.湯むきして切ったトマト、ピーマンの細切り、タコを加える。
5.鍋にさっと洗った米を入れ、2、4を加え弱火で煮て、唐辛子、塩、胡椒で味を整える。