インタビュー 未来へ ー 学習院大学発ベンチャーの挑戦 ー


4.研究も事業も、人とのつながりを大切に

――私もマイトルビン入浴剤を愛用していて、その良さを実感しています。実感できる製品があることは、人に勧めるときに説得力があるなと感じています。

 本当にその通りですよね。私が最初「それってどんな意味があるの?」と言っていた銭湯イベント(注)も、谷若くんがどんどん広げていて、気づけば他学部の先生から「この界隈ではみんな知ってますよ」と言われるようになりました。

(注)マイトルビン入浴剤を活用した地域銭湯とのコラボイベント「マイトルビンの湯」。大学の研究成果の社会還元の取り組みとして、都内銭湯では人気の変わり湯となっているようです。都内29銭湯での同時開催を皮切りに2025年からは京都・大阪・名古屋。

それがきっかけでSDGsをテーマにしたケーブルテレビ番組にも取り上げられましたし、11月には東京都との大きなコラボイベントも予定していると聞いています。

 

「マイトルビンの湯」初開催時のポスター(マイトジェニック社提供)

私は普段、大学教員として教育と研究をやりながら、会社のことにはあまり口を挟まないようにしています。もちろん、大事な意思決定には関わりますが、基本的には谷若くんをはじめとしたメンバーに任せていて、私は彼らに「講演会に出てくれ」と言われたら話しに行くぐらいです(笑)。

というのも、私が学生の頃、上の先生は私に自由に実験をさせてくれました。しょっちゅう失敗していましたけど、私が夢をもってあれこれしている限りは「どんどんやりなさい」と言ってくれました。だから私も、研究室運営においても会社経営においても、そういうスタイルでいたいなと思っています。

――お話を伺っていると、柳先生のそういうお考えが谷若社長はもちろんのこと、周囲のさまざまな方との連携につながっているのかなと感じました。

柳 おかげさまで本当によい人間関係に恵まれ、マイトルビンの研究を進められています。特に、漢方薬成分からのマイトルビンの合成には有機化学の技術が不可欠です。私の東京薬科大学時代の同僚で有機合成化学が専門の阿部秀樹教授(日本女子大学)に気軽に声をかけたところ「私もそういうことがしたかったんです」とご協力いただき、私たちの取り組みのごく初期からマイトルビン研究の発展にご尽力いただいています。

さらに彼の知り合いが東京薬科大学のまさに漢方資源の専門家で、植物由来のクルードな物質から合成したピュアな物質まで、我々がつくったものを綺麗に定量してくれています。

最近プレプリントを発表した論文は、尾池雄一教授(熊本大学)や井上聡部長(東京都健康長寿医療センター研究所)といった、抗加齢医学分野の第一人者の先生方との共同研究ですし、その他にも国内のさまざまな先生方との共同研究を通じて、マイトルビンをはじめとしたミトコンドリアの基礎研究・応用研究に力を注いでいます。

学習院でも、同じ生命科学科の尾仲宏康教授や掛川 渉教授らと「老化メカニズムの基盤となるミトコンドリア機能制御システムの解明と創薬」をテーマにした研究助成金を獲得して、マイトルビンを軸にした共同研究を進めています。

今後もっと会社が大きくなったときには、学習院出身の皆さんにもぜひ参加して欲しいと願っています。卒業後すぐに入社ではなくても、社会経験を積んだ後での参加も歓迎です。来年には新たにメンバーが加わる予定ですので、そうした受け入れ体制も少しずつ整えていきたいと考えています。


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