インタビュー 未来へ ー 学習院大学発ベンチャーの挑戦 ー


3.創業当時の資金難と、理学部同窓会との出会い

――お二人の出会いや、お互い違う視点を持ちながらも同じ道を歩んでこられた様子が伝わって来ました。そこから2023年に学習院大学発ベンチャーとしてマイトジェニック社を設立した経緯はどのようなものでしたか? 大学としても、あまり前例がなかったと伺いました。

 正直、当初は会社を作る発想はありませんでした。ただ、マウスでの有望なデータを見て、「これは事業として社会に届ける価値がある」と判断しました。研究成果の社会実装には、製造や品質管理、知財管理や契約を担う責任主体が必要です。そこで学習院の研究支援センターの支援を受け、代表は谷若くん、私は取締役として、2023年4月に株式会社マイトジェニックを設立しました。

しかし、すぐに資金的に厳しい状況に陥りました。幸い、とある製薬企業から注目していただき資金的に援助いただいたものの、創業初期は本当に難しい状況でした。

そんなときに力になってくれたのが、理学部同窓会のみなさんでした。創業間もないころ、理学部同窓会だより『想』で研究室やマイトジェニックを紹介していただき[6][7]、そのつながりからクラウドファンディングでも応援していただきました。100回以上も続いている理学部同窓会の技術交流会にも呼んでいただきましたよね。

金銭的な支援はもちろんのこと、そうした場で直接応援の言葉をかけていただいたことで、精神的にも非常に励まされました。

理学部同窓会 第102回技術交流会の集合写真(理学部同窓会HPより)

 

――その後、マイトルビン入浴剤、そしてサプリメントの販売と、次々と新しい発表をされていらっしゃいますよね。そうした取り組みを拝見して、今もみんなで応援させていただいております。

 本当にありがとうございます。谷若くんともよく話しているのですが、学習院の研究から生まれたマイトルビンをしっかりと社会に役立つ形、それも可能であれば医薬品という形で送り出して、いつか学習院に恩返しするのが私たちの目標の一つです。

一方で、医薬品開発には膨大な時間と費用がかかります。私のような基礎研究者は、新しい発見をしたら特許を取ればいいのだろう、特許を取ったら何か事業ができるだろう、みたいに漠然と考えがちですが、谷若くんは真っ先に、まずは入浴剤やサプリメントといった形で事業化する発想を持ち込みました。

MitoRubin®サプリメント(マイトジェニック社提供)

 

植物由来の成分を加工してマイトルビンを得て、まずは雑貨として比較的すぐに製造できる入浴剤を、さらに並行して、食品原料を使用したサプリメントを開発しました。少額の資金でも動き出せたのは、彼の発想力と行動力によるところが大きいです。結果的に、入浴剤は昨年から、サプリメントも今年から製品化してECサイトで販売を開始することができました。

――クラウドファンディングの成功も大きかったですね。

柳 はい。ちょうど私がテレビ番組から出演オファーを受けてマイトルビンについて話したタイミングで、谷若くんがサプリメント製造に向けたクラウドファンディングを企画しました。番組を見た1,000名以上の方が支援してくださり、資金面で大きな弾みがつきました。そこから製品化も一気に進みましたね。

マイトルビンのクラウドファンディング・プロジェクト(CAMPFIREより)


もちろん会社としてはまだヒヨコのような段階ですが、次のフェーズに向けた取り組みが次々と動きだしています。私自身の一番の興味は創薬ですが、マイトルビンの可能性は畜産やペット、さらに植物を含めてさまざまな事業展開が可能だと考えています。

――先日東京ビッグサイトで開催された「ファーマラボEXPO」(2025年7月9〜11日)では、柳先生のご講演後、ブースにたくさんの方がいらっしゃっていましたね。入浴剤やサプリメントについての注目はいかがでしたか ?

谷若 本当に大きな反響がありましたね。アンチエイジング研究において、ミトコンドリアは今や一大トピックです。入浴剤やサプリメント以外にも、様々な業界の方から「ぜひマイトルビンを使わせて欲しい」「こんなことに使えないだろうか?」といった問い合わせやディスカッションの機会をいただきました。

ファーマラボEXPOでブースに立つ谷若社長(中央/撮影:吉野)


ミトコンドリアをあまりよくご存知ない方でも、「もう一度説明して欲しい」ということで、熱心に私たちの説明に耳を傾けていただき「ぜひ会社に持ち帰って紹介させてください」という方がたくさんいらっしゃいました。現在、複数の事業者の方々と商談を進めています。


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