平成30年7月度の二木会を次の通り開催しましたので報告致します。
1.日時 平成30年7月12日(木) 18時30分~20時40分
2.テーマ 「裁判員裁判の現状と問題点」
3.講師 河村敏介氏(昭和36年大政治卒)
住友重機械工業株式会社専務執行役員、日本スピンドル製造株式会社社長を経て、
現在 一般社団法人 関西BNCT医療センター理事 法学博士
4.出席者 22名
(講演の要旨)
裁判員制度は、平成21年(2009年)5月から施行された。本年4月で裁判員裁判は12,951件、参加した裁判員は83,663人となった。裁判員の選出は、選挙名簿から無作為に20歳以上の候補者に調査票を送り、弁護士や自衛官・警察官・国会議員等法律で決められた除外者および辞退者以外の対象者から、「選任手続期日」に出席を求める。
施行以来9年間で「選任期日」に出席した人は310,719人。ただし、出席率は、平成21年当初の84%から同29年では64%と毎年減っている。一方、裁判員裁判による判決件数は11,077件あり、有罪率は97%を占め(大正陪審裁判の無罪率17%との比較)、その内容は死刑35件、無期懲役211件、それ以下の刑罰及び無罪86件となっている。(数字はH30年4月最高裁速報より)
裁判員制度の問題点はいくつかある。
①判決は、6人の裁判員と3人の裁判官が合議し、多数決で決定されるが、必ず最低1人の裁判官の同意を必要とする。
②裁判員栽判の判決を控訴審・上告審で審理するとき、職業裁判官が一審判決(裁判員裁判)を破棄・自判する事案が増えている。一般国民から選出された裁判員の判決を職業裁判官のみで審理し判決を下すのは実質的に国民の司法参加の意味が無くなるのではないかとの疑問が出ている。
事例として寝屋川三女殺害事件(H24・3・21大阪地裁判決)千葉大学女学生殺害事件(H23・6・30千葉地裁判決)。
特に控訴審では破棄する場合は原審に差し戻すのを原則とすべきではなかろうか。
③最高裁も当初の判決で示したように裁判員の参加する裁判体の判決を尊重するためにも刑訴法400条適用を判決か、見解で示すべきではなかろうか。
④長期化する裁判(いわゆる100日栽判)は、裁判員の職務従事日数が大幅に増え多大な負担となり辞退率の増加を助長する(長期事案では、最長207日の裁判もあり)。
⑤裁判員の評議内容には、厳しい守秘義務が課されている(懲役6か月、罰金50万円以下)。しかし裁判員経験者の感想・意見・提言を広く公表するほうが、国民の関心を呼び、生きた裁判員制度の検証を可能とし、良き司法の実現につながるのでは?
⑥わが国では、検察官のみが公訴(起訴)する権限を持っている。その権限裁量は、裁判所の審理事件を独占的に選別できる。国民の民意を反映させるには、出口の裁判員制度と同じく、入口の検察審査会にも裁判官と同じような権限を持つ裁判員と同等の権限を審査員に与え参加させるべきではないか?[検察審査会と裁判員制度の表裏一体論]
最後に、これら裁判員制度を、憲法の基本原理である国民主権の具体的行使として義務であると同時に権利として国民一人一人が支え発展させることが必要と考える。
(文 新道正雄 講師加筆)
中山伊知郎一橋大学初代学長の教えである「学問は一生のものだ。」を自ら実践し、72才で神戸大学大学院に入学、法学博士号を取得されたこと、また、日本スピンドル在任中に社を挙げてJR事故被害者救出に奮闘された際のお話し等もお聴かせいただき、あっという間の1時間であった。
(JR福知山線脱線事故:平成17年4月25日、塚口―尼崎駅間で発生した列車脱線事故。乗客と運転士合わせて107名が死亡、562名が負傷した。)
事故が工場のすぐ傍で起こったため、操業を止めて、約500人の従業員が救出活動に従事。死傷者があまりにも多く救急車のみでは搬送が追いつかなかったため、自社のトラックの荷台に負傷者を乗せて病院まで救急搬送したこと、また事故の際、家族との連絡用にと被害者に貸し出した社員所有の多くの携帯電話が、お礼の手紙や菓子折り付きで全数戻ってきたというお話しには感動した。
(文 木口久喜)
会場の様子。
学習院大学、神戸大学大学院共に河村講師と同窓の大阪市立大学大学院教授・
吉村典久氏も出席。(手前テーブルの右から2人目)
本年11月度の講師・近藤佳代氏(左)から河村敏介講師へ記念品の贈呈